提供:南海電気鉄道 制作:和歌山経済新聞編集部
南海和歌山市駅を中心とした複合施設「キーノ和歌山」が6月5日にオープンする。同施設には、南海電気鉄道(以下、南海電鉄)運営の商業施設では初となるイメージキャラクター「キノまる」が誕生。和歌山の山をかたどったキャラクターは、これから施設を盛り上げていく存在だ。
キノまるの生みの親は、有田市出身で海外でも活動するアーティスト伊藤彩さん。伊藤さんはアイルランドと和歌山に拠点を持ち、「フォトドローイング」と呼ばれる独特の制作方法で精力的に作品を発表している。今回は同郷同年生まれの同社森川保洋さんが有田市内にある伊藤さんのアトリエを訪問し、キノまる誕生秘話や制作活動のこと、故郷・和歌山のことを聞いた。
森川:今日はキノまるを生み出してくださったお礼に伺いました。伊藤さんのプロフィールを拝見したときからとても親近感があり、どういう方なのかお会いしてみたいなと思っていました。
伊藤さん(右)が和歌山の拠点とするアトリエで話を聞く森川さん
伊藤:同じ年齢で、高校生まで同じ時間を和歌山で過ごしていたんですね。興味を持っていただいてありがとうございます。私もどうしてキノまるをキーノ和歌山のイメージキャラクターに選んでいただけたのか聞いてみたかったので、今日を楽しみにしていました。
森川:他のデザイナーさんからもさまざまなキャラクター案をもらいましたが、伊藤さんの作品を選ばせていただいた一番の理由は、絵と併せて書いてくれた設定の中に「和歌山」の言葉が出てきたからです。キーノ和歌山のコンセプトも和歌山を大切にしています。共感して、チーム全員が「いいね」と一致しました。伊藤さんがこれまでに描かれた伊藤農園のキャラクター「きくちゃん」(※注)もとてもかわいい。ぜひお願いしたいと思いました。
※注:伊藤農園は父の伊藤修さんが営む1897(明治30)年創業のミカン問屋。「きくちゃん」は彩さんが考案した同園のイメージキャラクター。
伊藤:キノまるは南海電鉄の商業施設で初の公式イメージキャラクターだとお聞きしましたし、何より両親が南海電鉄と仕事することをとても喜んでくれました。私も本当にうれしかったです。実はこれまでも「きくちゃん」以外にいくつかのキャラクターを描いたのですが、採用されたのは初めてです。キノまるの案を出したのは昨年夏ごろ、自宅に2~3日こもって集中して大量のラフ画を描いたのを覚えています。その中から6点が候補に残りましたが、なぜ最終的にこの絵に決まったんでしょうか。
森川:どのイラストもかわいかったり面白かったり、正直なところ1つに絞るのは難しかったです。チーム以外のメンバーにも相談して、親しみやすく愛嬌(あいきょう)があり、ポーズのバリエーションがたくさんあるこの絵に決めました。どうやってこれだけのアイデアを出したのでしょうか。
伊藤さんが南海電鉄に提案したイラスト
伊藤:建物のコンセプトからどんな空間になるかイメージして、それ以外は何も考えず描き始めました。描いてみると、この形をもっとこうしたいと次のイメージが湧き、しりとりのようにつながりました。
森川:もっと設定をきっちりと固めてから描き始めるのかと思っていました。私たちは漠然と和歌山=ミカンなど、分かりやすいアイデアしか出てこないので驚きました。
ラフ画を見ながら話す伊藤さんと森川さん
伊藤:新しい施設なので、皆さんがすでに持っているイメージは使わないように心掛けました。キーノ和歌山は食べ物を扱う店が多いので、おしゃれなパンを買いに来る奥さまがたくさん来そうだな、そういう人はこういうものを買うのかなと頭の中で想像を膨らませました。私の中ではお買い物に来る「マダム」なお母さんがいて、キノまるはその子どもという設定が何となくあります。キノまるはお母さんのまねをしたい年頃で、かごを同じように持って後ろを付いていき、ままごとのように買い物をする。素直な性格で、お母さんが大好き。カートを押しているキノまるのイラストも描きましたが、それはお母さんのまねをして押している姿なんです。
森川:なるほど!描かれていませんが、キノまるのそばにはお母さんがいるんですね。
キノまるは早速地元の子どもたちにも受け入れられている(和歌山市立伏虎義務教育学校にて)
森川:今はアイルランドと有田の二拠点生活とのことですが、なぜアイルランドに行かれたんですか?
2015年に開催された「和歌山と関西の美術家たち リアルのリアルのリアルの」で展示した油絵の説明をする伊藤さん
伊藤:2016(平成28)年まで有田にいたのですが、アイルランドで現地に住みながら作品を作る滞在制作型アートの公募があって選ばれました。アーティストばかりのレジデンスで暮らし制作しました。アルバイトもしていたので寝る暇がないほどでしたが、充実した時間を過ごしました。
森川:和歌山から世界に出て、価値観や作品の傾向が変わりましたか?
伊藤:アイルランドには雄大な自然があり、大きなものを得ました。私は、もともと自分の体験から作品を膨らませるタイプです。アイルランドに渡る前から、旅行をしては和歌山に戻って作品を作り、また旅行して経験を積んで作ることを繰り返していました。湧き出すばかりだと枯れてしまうので、出したら入れないと作れない。外に出ても、必ず和歌山に帰ってきていますから、これからも軸足は和歌山に置いたままでしょう。和歌山でもっと活躍したいので、これからも頑張ります。
和歌山での創作活動への意欲を語る伊藤さん
森川:伊藤さんは有田の星ですね。和歌山が非常にお好きだと伝わってきたのですが、子どもの頃からそうなのでしょうか。私は、進学で和歌山を出る前は、何もないと感じて嫌でした。地元を離れてみれば和歌山がいいところをたくさん持っていると気付きましたし、和歌山に関わる仕事をさせてもらっている今は、より和歌山の魅力を感じられるようになりましたが。
伊藤:ずっと変化がないので飽きてくることはわかります。でも有田で見る夕日は毎日見てもきれいじゃないですか。毎日見ても飽きません。こんなにきれいな風景はなかなかない。有田みかん海道から見る夕日が一番好きで、ずっと通っています。
有田のみかん山を背景に微笑む伊藤さんと森川さん
森川:伊藤さんは和歌山市駅へ行ったり、南海電車に乗ったりしますか?
伊藤:最近は車移動が増えましたが、子どもの頃は南海電車に乗って出掛けていました。「キーノ和歌山」は工事中に見に行きました。スーパー、クリニック、飲食店とさまざまな機能があって便利になりますね。私は「太平洋酒場」での食事と「カンデオホテルズ南海和歌山」のお風呂からの眺めが気になっています。
森川:キーノ和歌山は和歌山の玄関口であり、街を見渡せる高さもあるので、「街を見守る場所」にしたいと考え、さまざまな機能を持たせました。キノまるには盛り上げ役として館内やチラシなどさまざまな場で活躍してもらいます。ショッピングカートの近くでは、カートを押すキノまるが見られますよ。
伊藤:和歌山市駅前が充実したエリアになるので駅前に引っ越したい。キノまるもたくさん登場して、うれしい限りです。生まれ育った和歌山でキノまるを生み出すことに携われて大変良かったです。
森川:キノまるは、これからキーノ和歌山の中で大切に育てていきます。
伊藤:良い子に育ててください。みんなに愛されたらいいなと思います。
アーティスト 伊藤彩さん
1987(昭和62)年和歌山生まれ。2011(平成23)年に京都市立芸術大学 大学院美術研究科絵画専攻を修了。「Art Camp in Kunst-Bau 2007」(サントリーミュージアム[天保山]、大阪)でサントリー賞、「アートアワードトーキョー丸の内 2011」でシュウウエムラ賞および長谷川祐子賞を受賞。これまでに「和歌山と関西の美術家たち リアルのリアルのリアルの」(和歌山県立近代美術館、2015年)等に出展。2019(平成31)年4月にはアイルランド・ダブリンの画家、リチャード・ゴーマンとの2人展「Sea Both Sides」(8/ ART GALLERY/ Tomio Koyama Gallery、Hikarie 、東京渋谷))を開催するなど精力的に活動中。
2020年6月5日にオープンする南海和歌山市駅を中心とした複合施設。
地産地消にこだわった新しい組み合わせ型スーパー「ロックスターファームズ」、和歌山の名店をそろえたレストランフロア「キーノ・ザ・フードホール」、最上階の露天風呂から紀の川を望められる「カンデオホテルズ南海和歌山」、カフェも楽しめる蔦屋書店併設の新しいスタイルの図書館「和歌山市民図書館」などから構成される食・医・泊・働・本が集まる新しいまちの居場所です。
※「カンデオホテルズ南海和歌山」のオープン日は5月29日現在未発表です。