和歌山市在住の近代文学研究者・岡本和宜さんが編集した「有吉佐和子ベスト・エッセイ」が1月14日、「筑摩書房」(東京都台東区)から刊行された。
有吉佐和子は、「紀ノ川」「華岡青洲の妻」「恍惚(こうこつ)の人」など、歴史や社会問題を題材にした作品で知られる小説家。1977(昭和52)年に刊行した連作短編小説「青い壺(つぼ)」は、2011(平成23)年の新装版が60万部を突破し、注目を集めている。
「有吉佐和子ベスト・エッセイ」は、1956(昭和31)年に25歳で女流作家としてデビューした頃の苦労や興味の赴くままに旅をする行動派の姿、仕事に没頭して体調を崩した経験など、56編のエッセーとルポルタージュを収録する。
岡本さんは「有吉佐和子さんの多面的な魅力に迫る1冊。1960(昭和35)年ごろから有吉さんは小説に専念するため、エッセーの書き下ろしや出版を断るようになった。本にまとめられない作品が散逸していて、惜しいと感じていた」と話す。「有吉さんは研究者顔負けの徹底した取材と綿密な準備をする作家。エッセーからは等身大の作家の姿が読み取れる。マウンティングやSNS時代の生きづらさなど、現代の課題にも通じる鋭い洞察が随所にあり、今読んでも強い共感を得られる」とも。
文庫判、384ページ。価格は990円。