JRきのくに線の串本駅~新宮駅間で11月12日、地域を学びながら旅行を楽しみ、列車からの避難訓練体験など鉄道防災を学ぶ「鉄學(てつがく)列車」のモニターツアーが実施された。主催は和歌山大学西川研究室・此松研究室とJR西日本和歌山支社で構成する鉄道防災教育・地域学習列車「鉄學」試行委員会。
きのくに線は紀伊半島の海岸線に沿う総延長200.7キロメートルの路線。津波浸水想定区間は全体の約35%の69区間、73.5キロメートルにわたる。2007年から全乗務員が津波ハザードマップやラジオを携帯。駅に避難ルートマップを設置したり、避難はしごを車両内に設置したりするほか、2013年からは車両を使った実践的な避難訓練にも取り組んでいるという。
講師の西川一弘さんは「これまでJRや地域と協力して、全国的にも珍しい実車を使った飛び降り型避難など実践的な訓練を行ってきたが、実施できる回数には限りがある。地域資源を学ぶ観光と訓練を一体化することで参加者も増え実施回数も増やせると考えた」と話す。
当日は中学生や学校関係者、ジオガイド、鉄道関係者31人が参加。串本~新宮区間を徐行と停車を繰り返しながら約4時間かけて運行した。串本町の橋杭岩付近では列車を緊急停車し高台への避難訓練を体験。避難後は高台から見渡す橋杭岩の景色を楽しんだ。そのほか、波食台や海食棚、「日本の重要湿地500」に選ばれた田原地区の水田・湿地、宇久井半島と大狗子半島のリアス式海岸などを徐行で見学。昼食には南紀月の瀬温泉ぼたん荘(古座川町)が作ったシカ肉や鮎など地元食材を使った特製「ジオ弁当」と橋杭岩をモチーフにした和菓子「立岩巻」が提供された。
西川さんは「鉄道乗車中の津波からの避難は全国の沿岸部を走る鉄道会社の共通課題。鉄道防災教育をパッケージ化して、学校の遠足や修学旅行などで活用し、いざというときに一人でも多くの人が避難できるようにしたい」と意気込む。