提供:ワカカツ 制作:和歌山経済新聞編集部
和歌山駅と奈良県の王寺駅を87.5キロメートルにわたって結ぶローカル線・JR和歌山線。1900(明治33)年に全線が開通して以来、住民や観光客の足となり地域を支えてきた。
粉河駅に停車する「105系」
しかし、沿線の街がマイカー中心に形成されたことや少子化の影響で利用客は年々減少。「廃線の危機」を迎える前に行動を起こそうと、2017(平成29)年、地域住民が主体となって沿線活性化に向けて活動する「ぼくらの和歌山線活性化プロジェクト~ワカカツ~」をスタートした。3年目の今年、約30年ぶりに新型車両「227系1000番台」が桜井線(万葉まほろば線)との共同運用で導入され、ワカカツも大きな節目を迎えた。
小島弘義和歌山駅長と田中理恵さんの合図で出発する新型車両「227系」(3月16日)
新型車両デビューに先駆けた2月23日、和歌山駅-橋本駅間で新型車両試乗会が行われた。それに合わせワカカツは、沿線自治体と共同でイベント「新型車両に手を振ろう!」(以下、手を振るプロジェクト)を実施。新型車両のPR動画撮影を目的とした企画だったが、今まで積み上げた成果が目に見える一日となった。
「新型車両に手を振ろう」イベント当日の様子
手を振るプロジェクトは事前申し込み無しで当日を迎えたが、沿線には予想をはるかに上回る700人近い人が駆け付け、横断幕や旗、地元の特産品などを手に、新型車両に向かって手を振った。橋本駅のホームでは車両のお披露目会も行われ、子ども連れから高齢者まで幅広い世代が集まりにぎわいを見せた。
橋本駅でのお披露目会には多くの地元住民や鉄道ファンが駆け付けた
手を振る地域の人たちの笑顔をカメラに収めたのは、過去にもワカカツのプロモーションムービーを手掛けてきた県立那賀高校放送部の部員たち。当日はOBも応援に駆け付け、走る車内と沿線で手を振る人たちを間近で撮る班に分かれ撮影に挑んだ。
車窓を撮影する那賀高校放送部の北原涼部長
スケジュールの都合で打ち合わせやロケハンに参加できず、当日を迎えた部員たちには不安もあったが、走る車内で自然に連帯感が生まれ、声を掛け合い、両側の車窓を手分けして撮影することができたという。
副部長の栗栖千奈さんは「先輩から引き継がれてきた活動がつながって大きな輪になって見えた、特別な日だった。皆がつながっていて、すてきな街だと心から思えた」と話す。当日の撮影と編集作業も担当した部長の北原涼さんは「分からないことがたくさんある状態でのスタートだったのでとても緊張したけれど、途切れることなく人が立っていてくれてうれしかった。動画にもできるだけたくさん人の顔を入れようと決めた」と笑顔を見せる。
那賀高校放送部のメンバー
完成した動画は「和歌山線227系イメージPV(60秒バージョン)」のタイトルでJR西日本公式ユーチューブチャンネルで公開しているほか、和歌山市役所、紀の川市役所、和歌山駅、橋本駅でも放映している。
想像を超える人が集まってくれたことに感激した実行委員会メンバーは、急きょ感謝状を渡す企画を決定。フェイスブックページなどを通じ、感謝状と粗品を贈呈することを告知し、当日手を振ってくれた人たちからの連絡を待った。70組400人からの反応があり、そのうちの半数は自宅や活動場所まで足を運び対面し、感謝状を手渡した。
感謝状を受け取る粉河中学校の生徒会のメンバー
手を振るプロジェクトに、生徒会や部活動の生徒たち約100人が参加した紀の川市立粉河中学校。生徒会の生徒4人が代表して感謝状を受け取った。
緊張した面持ちで感謝状を受け取った生徒会長の山地瑠維さんは「直接感謝状を渡しに来てもらえてうれしい。JRと言えば電車の運転士さんや車掌さんのイメージで、地域住民との取り組みもしていることに驚いた。ワカカツには初めて参加したが、今後も機会があれば一緒に地域の取り組みをしていきたい」と話す。
2019(平成31)年1月には、ワカカツ応援大使に吉本興業所属のお笑い芸人「わんだーらんど」の2人が就任。「笑い」と「親しみやすさ」を沿線活性化活動にも取り入れようと奮闘している。まことフィッシングさんは「手を振るプロジェクト当日、笑顔で手を振ってくれる人たちを見て、地道な活動が実を結んでいるのを肌で感じた。後は巻き込んで増やしていければいい。自分たちが発信してもっと盛り上げたい」と意気込む。
(左から)ワカカツ応援大使「わんだーらんど」のまことフィッシングさんとたにさかさん
2人は「婚活列車」や芸人のネタが見られる「芸人列車」など、乗って楽しむ「レジャートレイン」を提案した。たにさかさんは「通勤通学以外の人に乗ってもらうには目的がいる。乗ったら楽しめると思えば、車を置いて電車に乗ってくれるはず。さまざまな企画で楽しい路線に」と笑顔を見せる。
和歌山線をPRする「わんだーらんど」(吉本興業・和歌山県住みます芸人)
JR西日本和歌山支社・総務企画課の島田真衣さんは「当日どれくらいの人が来てくれるのか、本当に電車が走り始めるまで分からなかった。電車が走り出してすぐに手を振る人の姿が見え、橋本駅に到着するまで人が途切れることがなく、うれしくて涙が止まらなかった」と話す。
(左から)JR西日本和歌山支社総務企画課の島田真衣さん、大久保学さん
ワカカツは、「もっと好きになる、もっと元気になる場所へ」をテーマに、数字に表れない「沿線の活性化」を目標に活動している。島田さんは「答えが目に見えないものを追っているだけに活動の手応えも感じづらく、地域の人たちは和歌山線やワカカツについてどう思っているのか悩んできた」と話す。
同社総務企画課担当課長の小谷典史さんは「手を振るプロジェクトの成功は、これまでに沿線の皆さんと活動してきた一つの成果だった。和歌山線が地域住民にどう見られているのか、手探りでやってきたが、車窓からたくさんの人の顔を見て、和歌山線は愛されていると感じた」と話す。
ワカカツではこれまでも、アートトレインやサイクルトレインなどの企画列車も運行してきた。車内を沿線学生たちの発表の場にするなど、定例化したイベントもある。小谷さんは「一つひとつのイベントも続けていけば、沿線について考えるきっかけとなる。地域の皆さんの意識が変われば、街の将来もきっと変わると信じている」とも。
3年目を迎え、コンセプトはそのままに、地域密着の応援大使も加わり、パワーアップしてプロジェクトは継続していく。沿線地域の学校や企業、地域住民とのつながりが700人を動かした。高齢化が進み、近年は自動車社会の地方都市にはさまざまな問題が見えてきた。1世紀以上にわたり、地域を支えてきたローカル線が岐路に立っている。マイカーによる「電車離れ」が進む中でも、新型車両導入のイベントには大勢の人が集まった。効率や利便性だけではない、同じ空間を共有する公共交通に市民の注目が集まっている。地元の学生たちにとって、ただの通学路ではなく、地域の人と交流する場であり、発表する場に進化した。広がりを見せるワカカツと地域住民が今後どんなアクションを起こしていくのか、答えのない挑戦が続いていく。
沿線の最新情報やイベント案内はフェイスブックで確認できる。
[ワカカツ]は地域の皆さま・JR西日本が一体となり、和歌山線と沿線地域の未来を築くプロジェクトです。和歌山線と沿線の活性化を目標に、様々な取り組みをみんなで行っていきます。