和歌山県立近代美術館(和歌山市吹上1、TEL 073-436-8690)で現在、「明治150年記念 水彩画家・大下藤次郎展(島根県立石見美術館コレクション)」が開催されている。
明治維新から150年の節目となる今年、明治期以降の日本美術に道筋を作ったといわれる水彩画家の大下藤次郎の作品を集めた同展。島根県立石見美術館所蔵の作品や資料、大下氏につながりのある作家の絵画など、全191点を展示する。
1870(明治3)年東京生まれの大下藤次郎は、21歳で画家を志し、洋画家の中丸精十郎や原田直次郎に師事した。西洋絵画を学んだ画家の多くが油絵を制作した時代に、風景を描くことを好み、画材の持ち運びやすい水彩画を専門にした。1905(明治38)年には水彩画の専門誌『みづゑ』を創刊。当時未開の地だった尾瀬を水彩画で紹介した。20代から親交のあった文豪・森鴎外の小説「ながし」の主人公のモデルとしても知られる。
4日に開かれたフロアレクチャーでは、同館学芸員の宮本久宣さんが30人を超える参加者を前に、大下氏の経歴や絵画の特徴、作品の魅力を解説した。
宮本さんは「明治以前、日本には『美術』という概念すらなかった。大下藤次郎の水彩画や『みづゑ』の刊行が一般の人に美術や水彩画を伝え、美術と触れ合う機会をたくさん作った。大正以降の日本美術に与えた影響は大きい」と話す。「『みづゑ』は作品や技法の紹介だけでなく、水彩画の募集や質疑応答コーナーなど読者との交流を促す工夫がされ水彩画を普及させた。雑誌をきっかけに創作を始め大成した画家も多い。大下は水彩画の伝道師であり、画期的な誌面を作る編集者であり、水彩画専門誌を成功に導いた経営者でもあった」とも。
横浜市から来館した北村さんは「美術教師だった祖父の美術関連資料がダンボール30箱も出てきた。たどっているうちに明治期に興味がわいた。その中心人物が大下藤次郎だった。これだけの数の作品が見られる展覧会は全国でも珍しい。祖父に導かれた気持ち」とほほ笑む。
開館時間は9時30分~17時。月曜休館。観覧料は、一般=700円、大学生=400円。高校生以下・65歳以上無料。3月25日まで。